2017年3月1日放送のNHK番組『ガッテン!』は「決定版!コラーゲン100%活用SP」でした。しかし「決定版!」と銘打っておきながら「効果があるとする論文もあれば否定する研究もある」という注意もあり、もやっとした感じは否めませんでした。

実は、スタジオに登場した京都大学佐藤健司教授の学会発表(ただし企業スポンサーのランチョンセミナー)で番組内の内容を聞いたことがあるので、現在のコラーゲン研究の現状を紹介します。

サプリメントとして売られているコラーゲンは本当のコラーゲンではない

そもそもコラーゲンとは、アミノ酸が一直線につながってできるタンパク質の一つです。タンパク質と一言にいっても数え切れないくらいの種類があるのですが、コラーゲンは生物の中で三つ編みのような形を作り、皮膚も含めて弾力などを作るのに貢献しています。

(僕が編集協力した『池上彰が聞いてわかった生命のしくみ』より)

コラーゲンはヒトだけでなく、多くの動物がもっています。ところが、コラーゲンを分解する酵素をヒトはもっていないので、コラーゲンの状態で食べても何も起きません。

コラーゲンを加熱すると三つ編みの形が変わり、水分を抱える性質をもつようになります。これがゼラチンです。ただゼラチンは、ゼリーにすると美味しいのですが普段の食事には取り入れにくい難点があります。

そこで、ゼラチンを細かく分解して、水分保持の性質を失わせた状態で流通させているのが「コラーゲンペプチド」というものです。一般的にサプリメントなどで「コラーゲン」と呼ばれているものは、コラーゲンを加熱してできたゼラチンを分解したコラーゲンペプチドです。

番組では、コラーゲン(厳密にはコラーゲンペプチド)はゼラチンより値段が高いと言ってましたが、ゼラチンを分解してコラーゲンペプチドを作る加工費がかかっていると考えていいでしょう。

ドイツの中高年女性がコラーゲンペプチドを食べると肌に効果あり?

さて、本題です。コラーゲンペプチドを食べて肌はよくなるのでしょうか。これについてはドイツが一歩進んだ研究をしており、2つを紹介します。

どちらもコラーゲンペプチドと効果のない偽物(プラセボ)で比較していますが、被験者はコラーゲンペプチドか偽物か知られておらず、測定者も誰がコラーゲンペプチドを食べたのかわからない状態で実験しました。これは二重盲検と呼ばれている方法で、先入観を排除する方法としてかなり信頼できるものです。コラーゲンペプチドも偽物も粉末で、水などの冷たい飲み物に溶かして毎日飲んでいただきました。

  • 実験1

ドイツ人女性69人を3グループに分けました。分け方は、1日にコラーゲンペプチドを2.5 g食べるグループ、コラーゲンペプチドを5.0 g食べるグループ、偽物を2.5 g食べるグループでした。8週間後に皮膚の弾力を調べると、50歳未満の女性ではコラーゲンペプチドによる皮膚の弾力性は変わらなかったのですが、50歳以上の女性ではコラーゲンペプチドを2.5 gあるいは5.0 g摂取すると皮膚の弾力性が向上しました。

Proksch E, et al. (2014) Oral supplementation of specific collagen peptides has beneficial effects on human skin physiology: a double-blind, placebo-controlled study. Skin Pharmacol Physiol. 27(1): 47-55.

  • 実験2

ドイツ人女性114名(45~65歳、平均56歳)を2グループに分け、片方はコラーゲンペプチドを2.5 g、もう片方は偽物を2.5 g飲んでもらいました。コラーゲンペプチドを飲んだグループは、偽物と比べて8週間後で目元のシワの面積が減少しました。

Proksch E, et al. (2014) Oral intake of specific bioactive collagen peptides reduces skin wrinkles and increases dermal matrix synthesis. Skin Pharmacol Physiol. 27(3): 113-119.

どちらの実験も、顔立ちがしっかりしているドイツ人です。平たい顔族の日本人での研究はあまりないのですが、平均年齢48歳の16人を2グループに分けて同様の実験をしたとき、コラーゲンペプチドを飲んだほうでは8週間後に「冬に肌が硬くなりにくくなっった」「肌のきめが細かくなった」人がいたという報告があります。

岡元孝二 他 (2011) エラスチン・コラーゲン併用摂取による肌質改善効果の検証 『新薬と臨牀』 60(3): 639-650.

研究はまだまだ発展途上の段階ですが、どうもドイツ人の中高年で効果を実感しやすいようです。ただ、日本人で実感できるほどの効果があるかという判断はまだ難しいでしょう。進捗報告としてはいいかもしれませんが、数百万人が見ているテレビ番組で推奨するほどの証拠はまだないといえます。

ここで注意です。日本人で実験をしていないだけであって、今は「効果があるかどうかわからない」という段階ですが、同時に「悪い効果があるかどうかもわからない」という段階です。

看護師や医師の管理下で摂取するなら、何かあっても早い段階で対処できますが、そうでないときは何かの病気を引き起こす可能性すらあります。これは、特定の成分を一度に多く摂取するサプリメントすべてに当てはまることです。

なお、どの実験も毎日2.5 gまたは5.0 g飲んで8週間後なので、コラーゲン鍋を食べた次の日はお肌プルプルとことはありません。それはきっと食べ過ぎや飲み過ぎによるむくみです。

コラーゲンペプチドの分解レベルは特殊

では、コラーゲンペプチドは食べられた後どうなるのでしょうか。

コラーゲンペプチドも、アミノ酸がつながったタンパク質の一つなので、アミノ酸1個レベルまで分解されるはずです。アミノ酸までバラバラになれば、コラーゲンペプチドだろうが豆腐だろうが牛肉だろうが一緒です。

ところが、コラーゲンペプチドは少し違うらしい、という研究結果があります。これがスタジオに登場した京都大学佐藤健司教授の研究室の仕事の一つです。ちなみのこの研究室のテーマは、海洋生物がもつ健康増進作用物質の探索、といったところです。

京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 海洋生物機能学分野

コラーゲンペプチドは20種類のアミノ酸がつながったものですが、アミノ酸のうちプロリン(Pro)の一部は構造が変わり、ヒドロキシプロリン(Hyp)になります。これはコラーゲン独特の特徴です。そしてコラーゲンペプチドの中には、プロリンとヒドロキシプロリンが隣り合った並び(Pro-Hyp)があります。

Hypを追いかければ、コラーゲンペプチドが体内でどういう挙動をとるかわかります。コラーゲンペプチドを食べたあとの血中濃度を調べると、特にPro-Hypの2個セットが非常に多く見つかりました。普通、アミノ酸が数個つながったものを静脈注射しても、数分もすれば半分の量がバラバラに分解されます。しかしPro-Hypは、3時間後でも末梢の血管で多く見つかりました。

コラーゲンペプチドの場合、アミノ酸1個レベルまで完全に分解されるのではなく、Pro-Hypという特別な断片ができて血管内で流れる、ということは確からしいです。

Pro-Hypは培養細胞の分裂をうながす

次に、Pro-Hypが何をしているのか、ということです。『ガッテン!』では、体内で線維芽細胞が分裂するのを助ける言っていました。繊維芽細胞は、皮膚などが傷ついたときにコラーゲンなどを作り出し、肌の弾力を取り戻すのに関わっています。

ただ、『ガッテン!』の紹介には少し飛躍があります。というのも、ヒトの体内でコラーゲンペプチドが分解されてできたPro-Hypが、ヒトの体内で線維芽細胞の分裂をうながすことを証明した直接的な実験結果はないからです。シャーレ上の培養細胞なら、Pro-Hypを加えると線維芽細胞の分裂がうながされるという報告があります。

Ohara H, et al. (2010) Collagen-derived dipeptide, proline-hydroxyproline, stimulates cell proliferation and hyaluronic acid synthesis in cultured human dermal fibroblasts. J Dermatol. 37(4): 330-338.

シャーレ上の培養細胞とヒトの肌とでは環境がかなり違うので、そのまま人体に当てはめることはできません。研究する価値はありますが、先ほども書いたように「効果があるかどうかわからない」と同時に「悪い効果があるかどうかもわからない」というのが実情です。

僕がお仕事した中で、ある人工呼吸器が数十人規模の試験でよさそうと思われ、ヨーロッパで数千人規模の試験をしたら心血管死亡のリスクを上げてしまったというものがありました。こういうことが起こりうるので、サプリメントも含めた新しいものに医療従事者は慎重になっているのです。

心不全症例におけるASV適正使用に関するステートメント(第2報)

タイトルとまとめ画面がちぐはぐだった『ガッテン!』

以上が、コラーゲン研究の現状です。『ガッテン!』でも根本となるところは似ているので、こういったところをもう少し時間をかけて丁寧に紹介すればよかったと思います。

また、「決定版!コラーゲン100%活用SP」としておきながら、効果があるかもしれないしないかもしれない両論表記をするというまとめ画面を表示しました。推測ですが、先週放送のクレームを受けて冒頭で謝罪した中、急遽後付けで作ったのかもしれません。そのため、「決定版!」とは違う、ちぐはぐな印象を与えてしまいました。

何回も書いていますが、コラーゲンペプチドをサプリメントとして摂取するのは「効果があるかどうかわからない」と同時に「悪い効果があるかどうかもわからない」のが現状です。その状態で日常生活で「活用」するのは、少々リスクがあります。

タイトルを「コラーゲン研究最前線!」くらいにして、ここで書いたことを丁寧に紹介すれば、豆知識としていい内容になったかもしれないと思うと惜しいです。

 

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