今年は物理学賞もやります(Twitterで「試合放棄するとは何事だ!」という旨で怒られたから)。2016年のノーベル物理学賞はDavid J. Thouless博士、F. Duncan M. Haldane博士、J. Michael Kosterlitz博士に授与されることが発表されました。受賞理由は「for theoretical discoveries of topological phase transitions and topological phases of matter(物質のトポロジカル相転移とトポロジカル相の理論的発見に対して)」です。

@NobelPrizeより

プレッツェルで学ぶトポロジー

まずはトポロジカル、トポロジー的ということについて考えます。

トポロジーとは「位相幾何学」と訳されることがあります。ある図形について、切り貼りはしないというルールで、伸ばしたり曲げたりしても同じ性質を維持することについて研究する学問で、数学に分類されます。よくある例え話に「穴の数にだけ注目する」があるので、ここではドーナツで考えます。

ポン・デ・黒糖とハニーチュロは食感や味は違いますが、穴が1つということについては同じです。なので、ポン・デ・黒糖とハニーチュロはトポロジー的には同じになります。そして、スヌーピードーナツマロンチョコとお皿は全く違うように見えますが、両方とも穴はゼロなので、トポロジー的には同じになります。

次に、ドイツの焼き菓子プレッツェルで考えます。

プレッツェルは細長く伸ばした生地を結んでから焼きます。一般的には3つの穴があります。ひとくちmgmgすると穴は2つに減ります。もうひとくちmgmgすると穴は1つに減り、トポロジー的にはポン・デ・黒糖とハニーチュロと同じになります。さらにもうひとくちmgmgすると穴はゼロになり、トポロジー的にはスヌーピードーナツマロンチョコと同じになります。

ここで重要なのは、穴の数は1個、2個という整数であり、1.5個や√2個ではないということです。つまり整数倍で変化する、言い換えれば階段的に変化するということです。

ここからの図はNobelprize.orgより(一部改変)。トポロジーの概念では、坂道のように変化するのではなく、階段のように変化します。

ここから先、いくつか(注)が出てきます。(注)は、僕はいまだによく理解し切れていないところです。時間をかけて勉強してから追記しようと思います。

平面世界では渦がトポロジカルに変化する

さて、次は相転移です。ここで言う「相」とは物質の状態であり、通常は固体・液体・気体を示します。

水なら温度によって氷、液体の水、水蒸気と変化します。分子レベルで見ると、ガチガチに集まったのが固体、ゆったりと動くのが液体、激しく動くのが気体です。温度が変わり、固体から液体に変わるといった、相が変わるのが「相転移」です。

では、物質の厚みがほとんどない(原子が数個程度の)平面の世界ではどうでしょうか。ここまで薄くなると、原子の量子的な性質が表れ、日常の感覚とは少し違う世界が見えてきます。1960年代までは、絶対零度(全ての原子の動きが止まる温度、-273度)ですら平面世界では物質の状態は不変である、つまり相は1つであり、相転移は起きないと多くの研究者が考えていました(注1)。しかしThouless博士とKosterlitz博士は、平面世界でも相転移が起きうるのではないかと考え、その理論において原子のスピン(自転のようなもの)を考えました。

左の低温では、原子のスピンによって作られる渦の向きが逆になっている渦が2つ1組でペアになっています。そして右の高温では、渦は1つずつ独立しています。この変化が「トポロジカル相転移」です。

ここで重要なのは、温度を上げるとペアだった2つの渦が「突然離れる」ということです。日常では、氷から水に変化するような相転移では、氷が徐々に溶けます。しかしトポロジカル相転移では、徐々に離れるのではなく、あっという間に離れます。くっついていたものが動きながら離れるのではなく、プレッツェルの穴の数が2個から1個に減るように、急に変化するのです。

整数倍に変化する電気伝導率

Thouless博士はHaldane博士はさらに、ある半導体を低温下で強い磁場をかけたときに発生する電気伝導の奇妙な性質についてもトポロジー的に考えることで説明できると考えました。

普通の物質に電流を流したときにどれくらい流れるかは、周りの磁場などで変化します。例えば、磁場の強さを半分に弱めると、電気伝導率は2倍になったとすると、磁場の強さを徐々に弱めれば電気伝導率も徐々に強くなります。つまり磁場の強さと電気伝導率は下り坂の関係になります。

ところがある半導体を低温下で徐々に磁場を弱めてもしばらくは電気伝導率は変化せず、あるときにいきなり2倍に変化します。またしばらくは変化せず、次は最初の3倍、4倍と、正確な整数倍に変化します。これは「整数量子ホール効果」と呼ばれましたが、1980年代の理論では説明できませんでした。整数量子ホール効果を説明するために、Thouless博士はトポロジーの概念を導入しました(注2)。

そしてHaldane博士は、磁場がない薄い半導体層でも起きることを1988年に提唱しました。Haldane博士は、その現象が実験的に証明されることはないだろうと考えていましたが、2014年に絶対零度近くで発生することが確かめられました。もしかしたらこのあたりが今年の受賞の決め手になったのかもしれません。

Haldane博士は、同じことが原子が1個レベルで一列に並んだ直線の世界でも起きうることを理論的に示し、同様に証明されました(注3)。

新しい素材の開発への基礎的貢献

これらの理論や証明によって、物質の新しい状態「トポロジカル相」が研究されるようになり、現在のトポロジカル絶縁体、トポロジカル超伝導体、トポロジカル金属などが注目されるきっかけとなりました。将来、全く新しい素材を作るための基礎となる知見として評価されたものでしょう。

なお、詳しい内容は日本科学未来館の科学コミュニケーターブログで「わかった」への相転移シリーズで紹介しておりますので、ぜひそちらもご覧ください。

(注1)なぜ平面世界では相転移が起きないと考えられていたのかについては、熱揺らぎによる秩序相が関係するようですがわかりませんでした。

(注2)整数量子ホール効果そのものと、なぜトポロジーを導入することで説明できたのかわかりませんでした。

(注3)原子の個数が偶数と奇数で起きる現象が異なるようですが、どう違うのが、それが何に由来するのかわかりませんでした。

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