少し間が空きましたが、今週は、重力波検出の噂、ダウン症マウス胎児を治療、遺伝学用語の改訂、の3本です。

中性子星合体の重力波を検出か?

8月中旬ごろから、中性子星が合体するときの重力波を検出したらしい、という噂が駆け巡っています。

Rumours swell over new kind of gravitational-wave sighting – Nature News & Comment

重力波とは、質量のあるものが動くときに発生する時間と空間の歪みのことで、2年前に初めて観測されました。そのときはブラックホールが合体するときに発生したものでした。

今回は、過去に3回も重力波の検出に成功したアメリカのLIGOだけでなく、イタリアのVirgoでも検出したらしいという噂です。それだけでなく、すでにガンマ線観測衛星「フェルミ」がちょうどその時間にガンマ線バーストを検出したことが明らかにされています。このことから、今回は中性子星という、半径が10kmくらいなのに質量が太陽くらいある天体が合体したときに発生した重力波ではないか、といわれています。

あくまでも噂の段階で、詳細に解析しないとわかりませんが、2年前のときも噂から半年経ってからの公表だったので、今回ももしかしたら、かもしれません。

ちなみに2年前の発表のようすがこちら。「We have ditected gravitational waves. We did it!」「ohhhhhhhh!!!」のときのドヤ顔が見所です。

ダウン症マウス胎児の神経を治療する物質発見

京都大学などの研究チームは、妊娠している母親にある物質を口から食べさせることで、ダウン症の胎児マウスの神経細胞の数や学習機能を正常に戻すことができたと発表しました。

プレスリリース:http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2017/170905_1.html

論文:http://www.pnas.org/content/early/2017/08/29/1704143114.abstract

ダウン症では、染色体の数が増えることで遺伝子の機能が異常になり、神経細胞のもととなる神経幹細胞が増えないように抑えられています。ヒトでは21番染色体が3本になることで発症しますが、マウスでは16番染色体が3本になると似たような症状になることから、ダウン症のモデルとして研究されています。

要旨には「The oral administration of this compound」(この化合物の経口投与)とあるので、注射などではなく飲み薬でよいとのこと。論文は有料なので全文を読めていませんが、Supporting Informationを見ると、正常の胎児に与えても大きな問題はなさそうです。

ダウン症の症状を改善できるか、という期待もありますが、ダウン症は学習障害だけでなく、心疾患や聴覚障害もあるので、ダウン症の症状のごく一部を改善できるかも、という程度です。ただ、実用化を考えると、出生前検査を前提とした割付で長期観察が必要なので、そもそも臨床研究ができるのかという疑問も。今回の発見をもとに、成人でも有効な物質を探すというステップには活用できそうです。

ちなみに、実験で使われた物質は「アルジャーノン」と命名されました。ダニエル・キイスの名著『アルジャーノンの花束を』(原題:Flowers for Algernon)とかけていると思いますが、論文では「this compound, named ALGERNON (altered generation of neurons)」しか書いていないので、それ以上でもそれ以下でもないとしか言えません。

「優性」「劣性」などの遺伝学用語を改訂

日本遺伝学会が遺伝学の用語を改訂したという記事が朝日新聞に掲載されました。

遺伝の「優性」「劣性」使うのやめます 学会が用語改訂

中学校で習う遺伝の法則に出てくる「優性」「劣性」ですが、これは「生存に優れている、劣っている」という意味は全くなく、単にどちらが表面に出るか、というだけです。例えば、パーキンソン病のうち遺伝性のものは優性遺伝、つまり2つ1組の遺伝子のうち片方でも異常があれば発症します。元の英語は、優性がdominant(支配的)、劣性がrecessive(退行)なので、そもそもの訳が正確でなかったのではないか、というのは多くの関係者が常日頃思っていたこと。今回の改訂では、それぞれ顕性、潜性と改め、その他もまとめた用語集『遺伝単』が9月29日に発売されます。

なお、日本人類遺伝学会は、2009年に同じ改訂を打ち出しています(http://jshg.jp/about/notice-reference/ の「遺伝学用語の改定」)。日本遺伝学会も2014年ごろには、すでにこの問題に取り組んでいたようです。

日本遺伝学会のウェブサイトで大々的に取り上げているようすはなく、なぜこのタイミングで記事になったのかというのは不明です。おそらく、朝日新聞が『遺伝単』発売を知って独自に取材、日本遺伝学会も本の宣伝を兼ねて協力した、といったところでしょうか。

あと、variationの訳を変異から多様性にするのであって、mutationの訳は変異のままです(最近はあまり突然変異と言わなくなりましたが)。詳しくは友情出演したこちらの記事で。

variationは多様性、mutationは変異 – 徒然日記

色覚については意見が分かれそうなので、実際に本を読んでから改めて書きます。本の説明文には「日本遺伝学会からの意思表明!! 遺伝学研究者によくある誤認識を訂し、また、新しい用語を提案するなど、日本遺伝学会が総力をあげて纏めた、今後の遺伝学教育へ道筋を作る一冊」とあるので、研究者はもちろんのこと、中学・高校で理科を教えている先生もマストバイのアイテムです(ファッション雑誌風に)。

 

  • この記事についてもっと知るためのおすすめ図書