2017年ノーベル生理学・医学賞〜生命がもつ時計はどう動くのか~

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2017年のノーベル生理学・医学賞はJeffrey C. Hall氏、Michael Rosbash氏、Michael W. Young氏の3名に授与されることが発表されました。受賞理由は「their discoveries of molecular mechanisms controlling the circadian rhythm(概日リズムを制御する分子メカニズムの発見)」です。

時差ボケの原因は体内と現実の時計のズレ

概日リズムは、一般的には「体内時計」と呼ばれています。ただ、体内時計という言葉には、1日単位だけでなく1ヶ月や1年単位など、いろんな周期のリズムが含まれています。そのため、正確に書くと、「体内時計の中でも1日周期で変動するもの」を概日リズムと呼んでいます。

概日リズムを一番実感するのは、海外に行ったときの時差ボケでしょう。時差ボケが起きる原因のひとつは、ホルモンである「コルチゾール」の分泌周期です。コルチゾールは、腎臓の近くにある副腎皮質から分泌され、運動などに関わる交感神経を刺激するはたらきがあります。

コルチゾールは、夜が明ける前の午前4時ごろから急に増え始めます。朝起きるときに備えるためです。そして、日が沈んだ午後8時ごろに一番分泌量が少なくなり、リラックスして寝られるようになります。

ところが海外に行くと、コルチゾールの分泌時間と現地時間にズレが生じます。現地では夜なのにコルチゾールが大量に分泌されていると、夜なのに眠れないことになります。他にもさまざまな物質の量が24時間周期で変動しているのにずれるため、体の調子が悪くなります。これが時差ボケの正体です。

縦軸がコルチゾール分泌量。普通は起きる前に最大量となる。12時間の時差があるところに行くと、寝ようとするころに最大量となり、眠くならない。

植物で見つかった概日リズム

では、概日リズムの歴史を振り返ってみましょう。概日リズムの発見は古く、1729年にオジギソウで見つかりました。触ると葉っぱを閉じることで有名なオジギソウですが、実は夜中はずっと葉っぱを閉じています。おそらく、夜は光合成ができないので、葉っぱを広げていても水分が蒸発するだけで無駄だからでしょう。

ところが、昼と夜のある場所で育てたオジギソウを真っ暗な部屋に移すと、なんと光がないのに昼間になると葉っぱが開きます。これは、葉っぱを開く・閉じるというリズムが植物の体内にあり、真っ暗でもそれを覚えていることを意味します。

イラストはノーベル財団のプレスリリースより。

ショウジョウバエで時計の部品としくみが見つかった

時は流れること約240年。ついに動物で、概日リズムが乱れるという遺伝子の変異体が見つかりました。見つかったのはショウジョウバエで、遺伝子の変異体を作りやすい、変異した遺伝子の場所を特定しやすいとして、今でもよく使われている実験動物です。

ショウジョウバエは、成虫では24時間周期で活発的に飛ぶ・休むを繰り返します。ところが、その周期が完全になくなる、19時間周期になる、28時間周期になるという3種類の変異体が、Seymour Benzer氏とRonald Konopka氏によって見つかりました。この3種類はどれも同じ遺伝子に変異があることがわかり、その遺伝子はperiod(周期)と名付けられました。これが1971年の出来事で、初めて「時計遺伝子」というものが見つかりました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/5002428

13年後の1984年、period遺伝子の場所がわかりました。この研究に関わったのが今回の3名です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6440029
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6094014

さらに6年後の1990年、Jeffrey C. Hall氏とMichael Rosbash氏が、period遺伝子から作られるPERタンパク質の量が、夜には増え、昼には減るという24時間周期を作っていることを明らかにしました。つまり、概日リズムは細胞の中で起きているのです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2105471

1994年には、Young氏は2つ目の時計遺伝子timeless(永遠)を発見し、この遺伝子から作られるタンパク質TIMがPERタンパク質と結合し、period遺伝子に作用することを明らかにしました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8128247

これらの発見から、概日リズムの本質が見えてきたのです。

まず、period遺伝子からPERタンパク質が作られます。PERタンパク質はTIMタンパク質と結合して、作り元であるperiod遺伝子に「PERタンパク質を作ってはいけない」とはたらきかけます。するとperiod遺伝子はPERタンパク質を作るのをやめます。PERタンパク質は時間が経つと分解されるので、PERタンパク質が少なくなるとまたperiod遺伝子はPERタンパク質を作るようになります。この繰り返しが24時間周期で起きるのが、概日リズムの根本です。専門用語では「負のフィードバック」や「ネガティブフィードバック」といいます。せっかくなので覚えてきましょう。

基礎研究から病気の治療へ

PERタンパク質が他の遺伝子にも作用することで、さまざまな遺伝子が24時間周期ではたらくようになり、結果として体全体の調子が24時間周期のリズムを作ります。ヒトの場合、遺伝子は約2万3000個ありますが、このうち10〜15%が24時間周期で活動が増減すると考えられています。

これを医療に利用したのが「時間治療」です。例えば、がん細胞では概日リズムが乱れていると考えられてます。そこで、通常の細胞では抗がん剤が分解されやすい時間帯を狙って抗がん剤を投与すれば、通常の細胞は分解できて無傷だが、概日リズムが乱れて抗がん剤を分解しにくいがん細胞はダメージを受ける、というわけです(現在は臨床研究の段階)。
“からだの時計”が医療を変える – NHK クローズアップ現代+

他にも、喘息は夜明け前に起きやすい、心筋梗塞は午前中に起きやすい、脳出血は日没直後に起きやすいなど、いくつかの病気で起きやすい時間帯があります。背景にある概日リズムがわかれば、新しい予防法が見つかるのかもしれません。

生命らしく振る舞う概日リズムはおもしろい

3人の発見を機に、多くの生物で概日リズムの研究が進みました。例えば、マウスではClock(時計)という名前の遺伝子など、10個以上の時計遺伝子が概日リズムを作ります。最古の概日リズムを作る生物は、シアノバクテリアという単細胞生物で、KaiA、KaiB、KaiCという3種類のタンパク質が概日リズムを作ります。ちなみにKaiは「回転」に由来します。このKaiシリーズのおもしろいところは、細胞外でも24時間周期でリン酸化という反応を起こすというものです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15831759

概日リズムのおもしろいところは、ほとんどの生物がもっているにも関わらず、使われている時計遺伝子や仕組みが生物によって違うことです。さらに、概日リズムといっても、マウスは23.5時間、ヒトは24.8時間など、生物ごとに周期が少し違います。つまり、進化的に1つの始まりがあるのではなく、いくつかの仕組みが別々に作られたのではないか、ということです(少なくともシアノバクテリアの概日リズムの仕組みはかなり特殊)。

そのくせ、自然と約24時間のリズムを刻む、光を浴びるとリセットされる、多少の温度変化があってもリズムを維持するという共通点があり、これだけでも生命らしい振る舞いをします。概日リズムを含めた体内時計を研究することで、生命らしさの一端がわかるかもしれないと想像すると、今回の受賞価値を感じ取ることができるのではないでしょうか。

 

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