• HOME
  • life science
  • STAP細胞とSTAP幹細胞の可能性~実在するのか、解釈ミスの産物か?~

STAP細胞とSTAP幹細胞の可能性~実在するのか、解釈ミスの産物か?~

life science

本記事の研究成果を掲載した論文はRETRACTION(撤回、取り下げ)になりましたが、今後の検証のためにも記事は残します。

STAPに関しては、再現性がない、論文内で不正な画像処理が行われた可能性がある、実験手法の記述に他論文からの盗用がある、などと言われていますが、再現性については先週に動きがありました、理研が詳細なプロトコル(実験手法)を公開しました。筆頭著者は小保方博士、他2名が名を連ねています。今回は、公開されたプロトコルから見たSTAPの可能性(実験条件と遺伝子再構成について)を考えます。

プロトコルには未公開情報が含まれるも、本質的ではない?

公開されたプロトコルは、論文で書かれている手順にプラスして「IMPORTANT」という形で補足説明がされています。補足説明にも、未公開の情報と、改めて重ねて説明したものとがありました。

例えば、メスのマウスよりオスのほうがSTAPがより効率的に起きる(higher efficiency)とあります。ただし「より効率的に」であって、メスの細胞では起こらないということではないようです。論文の実験手法には「STAP細胞樹立のために、マウスのオスとメスの脾臓細胞を混合した」とあるので、これらの情報がどこまで本質に迫っているのかは、正直よくわかりません。

また、生物実験では試薬のメーカーや、溶液の作製法のわずかな違いが、実験結果に影響することも稀にあります。そのため、公開されたプロトコルには試薬メーカーもより詳細に記述してあります。例えば、リンパ球を取り出す過程では、赤血球の混在は好ましくないとして、赤血球を取り除くための方法でSigma社のW3500の水を使ったとしています(水ひとつをとっても、いろいろなメーカーから販売されています)。

ただ、細胞を培養するときに使う溶液「DMEM/F12」のメーカーが記載されていなかったり、リンパ球の細胞のみを取り出すFACSという機器の設定条件なども記載されていなかったりと、まだ不十分という印象もあります。ただこれらも、STAPを引き起こすのにどこまで本質的かは不明です。例えば、STAPは脳や筋肉の細胞でも起きると論文には記載してあるので、細胞を選別するFACSの条件は本質的ではないとも言えます。

STAP幹細胞で遺伝子再構成は起きていない!

ところで、公開されたプロトコルには、さらっと重要な記述があります。それは「STAP幹細胞では遺伝子再構成が観察されなかった」です。

遺伝子再構成については、こちらの記事で詳しく述べています。リンパ球の細胞を使った理由として「STAP細胞は混在していた未分化な細胞からできたのではなく、一度分化した細胞からできたもの」という主張を裏付けるためです。

そして、今回公開された情報は「STAP幹細胞では遺伝子再構成が観察されなかった」です。これを正確に把握するためには「STAP細胞」と「STAP幹細胞」の違いを理解する必要があります。

STAP細胞は、細胞を酸性溶液など刺激を与えることによってできる、多能性を持つ細胞の名称です。

しかし、ES細胞やiPS細胞とは異なり、STAP細胞には増殖する能力(増殖性)がないことも観察されました。そこで筆者らは、STAP細胞に増殖性を追加することを考えます。そして、プレスリリースにあるように「理研が開発した副腎皮質刺激ホルモンを含む多能性細胞用の特殊な培養液を用いることでSTAP細胞の増殖を促し、STAP細胞からES細胞と同様の高い増殖性(自己複製能)を有する細胞株を得る方法も確立」します。この、増殖性も持ったSTAP細胞がSTAP幹細胞です。

STAP幹細胞の正体は?

では、増殖性を持ったSTAP幹細胞で遺伝子再構成が観察できなかったとは、どういうことでしょうか。

可能性として考えられるのは、STAP幹細胞は分化した細胞由来ではなく、マウスから取り出したときに混在していた未分化な細胞由来ということです。増殖性を持たせようとした実験過程で、分化した細胞からSTAP細胞はできず(またはできても死滅して)、未分化な細胞のみが残った、それをSTAP細胞が増殖性を持ったSTAP幹細胞になったと解釈ミスをしてしまった可能性です。

この可能性では、STAP幹細胞は分化した細胞由来ではないとして、STAPとは関係のないこととなってしまいます。ただ、マウスの脾臓には未分化な多能性細胞が存在する(または培養条件で未分化な細胞が多能性を獲得する)という点では、それはそれで大きな発見だと思います。また、ここで死滅するSTAP細胞では遺伝子再構成の証拠はあるので、STAP細胞の樹立そのものは正しいということになります。

STAP細胞の正体は?

そして、もうひとつの可能性として考えられるのが(こちらはより悲観的ですが)、STAP細胞として見ていたものは、分化した(遺伝子再構成が起きている)細胞と、未分化な(遺伝子再構成が起きていない)細胞が混在したもので、遺伝子再構成の証拠は分化した細胞を検出したもの、いろいろな組織に分化した証拠は未分化な細胞を検出したもの、というストーリーです。

この可能性では、分化した細胞が未分化な状態に転換するというSTAPそのものが起きていないということになります。ただ、刺激を与えないと多能性は観察できないため、何らかのきっかけにはなっているのかもしれません。

論文では、STAP幹細胞は1細胞でも培養できるが、STAP細胞は1細胞培養では生存率が悪いとあります。リンパ球の細胞のみのときには、多能性細胞用の培地で生存できないだろうから、可能性としてなきにしもあらずです。

どうすれば証明できるのか

これを検証する方法として提唱されているのは、STAP細胞をマウスの受精卵(胚盤胞)に注入したものからSTAP細胞由来のマウスが生まれた、という主張を利用することです。

このマウスの皮膚などにおいて、遺伝子再構成が起きているかどうかを調べます。もし、皮膚細胞なのに遺伝子再構成が起きていれば、分化した細胞(リンパ球)が未分化な状態になってできたものである、つまりSTAP細胞の存在を証明できます。

他にもいろいろな可能性があると思います。ただ、培養細胞でGFPが徐々に光ったり、マウスが生まれたりという動画はあるので、STAPが起きる、または未分化な細胞が刺激によって多能性を獲得するという可能性は残っており、どちらにしても基礎研究としては興味深いです。

仮にSTAPが限定された条件でしか起こらないとしても、なぜその条件で起きるのかは重要なテーマになるし、生体内に未分化な細胞が存在するとしても、その未分化な細胞の挙動には興味深いものがあります。

……ところが、この記事を書いているときに、新しい疑念が浮上してきました。もう少し情報が集まってから判断したいのですが、あれは核心に迫るデータだからマズイだろうなぁ。

3/10 19:47追記】 

論文の共著者である若山教授がNHKのインタビューで「研究チーム内で特定の遺伝子に変化があると報告されていたが、理研から公開された情報には変化がなかった」という旨の発言をしています。具体的に何かはわかりませんが、NHKの映像ではこの記事の遺伝子再構成の部分の文章を映していました。STAP幹細胞では遺伝子再構成が観察できなかったことを、若山教授には知らされてなかったのかもしれません。事実だとすれば、かなり危機的な状況です。

 

  • この記事についてもっと知るためのおすすめ図書