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別実験の画像をコピーした「虚偽の報告」は取り下げるべき

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本記事の研究成果を掲載した論文はRETRACTION(撤回、取り下げ)になりましたが、今後の検証のためにも記事は残します。

前回の記事を書いたのは3月10日(正確には下書きをしていたのが3月9日)ですが、このときにはすでに致命的な嫌疑が浮上していました。それは「STAPとは関係ない論文の画像を流用している」というものです。

越えられない壁「胚葉」

問題の画像は、Teratoma formation assayという手法を用いて、マウスの体内でSTAP細胞がケラチン性上皮、骨格筋、腸絨毛に分化するというものです。以下の画像は、すべてNature, 505, 641–647のFigure 2dまたは2eから引用しています。

なぜこの3種類を調べているかというと、受精卵から体が作られていく過程で、細胞は外胚葉(ectoderm)、中胚葉(mesoderm)、内胚葉(endoderm)とに大きく分けることができるからです。

この図は以前に出したものです。上から外胚葉、中胚葉、内胚葉の代表例となっています(一番上は神経細胞になっていますが、神経細胞も外胚葉に分類されます)。受精卵から体が作られる過程において、未分化な状態でも外胚葉から腸の細胞が作られる、ということはありません。いわば「超えられない壁」のようなものです。

論文では外胚葉の代表としてケラチン性上皮、中胚葉の代表として骨格筋、内胚葉の代表として腸絨毛を見ています。STAP細胞は一部の組織だけでなく、多様な種類の組織に分化できること(多能性)を示したもので、論文でも根底となるデータのひとつです。

博士論文からの無関係な画像の流用

この画像が、博士論文の画像と酷似しているという指摘が浮上したのが3月9日の午後。博士論文はネットで公開されていないのでここでは載せませんが(国会図書館に行けばあるけど)、手っ取り早く調べる方法で見ると、確かに不審な点があります。

これは、問題となる画像の隣にあるFigure 2dを拡大したものです。図版を作るとき、普通は画像編集ソフトで背景が白のレイヤーで作成するので、きれいに白枠があります(ピクセルが揃ってないところは決して美しくはないけど、そこは本質ではないので)。

ところが、問題のFigure 2eを拡大すると、下のところだけ紫が滲んだようになっています。これは、背景が白のレイヤーで写真を置いたのではなく、別の画像からまとめてスクリーンショットまたはカラースキャンで用意するなどして、それを貼り付けたときに見られるもの、と言われています(実際には、もっと決定的に暴く方法もあるようですが)。

その画像のオリジナルと言われているものが、博士論文で「骨髄細胞から分化した組織」として掲載されているもので、STAPとは何の関係もありません。由来が全く違う細胞、手法も全く違う実験なのに同じ画像を使う、さらに生データを使わずスクリーンショットなどで流用するといったことは、本人も気付かなかったミスではなく、何らかの意図があるとしか考えられません。

共著者が論文取り下げを呼びかけ

前回の記事で書いた「STAP幹細胞で遺伝子再構成が観察できなかったこと」がきっかけで、共著者の若山教授は不審に思うになったようです。そして今回の「博士論文からの無関係な画像の流用」が決定打となり、論文取り下げを呼びかけています。

これは当然の判断です。今回の「博士論文からの無関係な画像の流用」は、いわば「虚偽の報告」をしているわけですから。

ただ、論文を取り下げたからといって、すべてが捏造というわけではありません。ちゃんとしたデータを集め直して再投稿、再受理ということもありえます(ハードルはとてつもなく高いでしょうが)。論文取り下げは「出直してきます」のようなものです。

分子生物学会も懸念

この嫌疑が浮上したのは3月9日、2日後の3月11日には日本分子生物学会(最も多くの生物屋が所属する学会、会員数はおよそ14,000人)は理事長声明(PDF)を発表しています。ちなみに理事長は3月9日の時点でTwitterで嫌疑に気付いています。

理事長声明では「著者の一部から、プロトコールという形で3月5日に実験方法の一部詳細が発表されました。しかし、その内容はむしろ論文の結論に新たな疑義を生じるものでした」とあり、これが前回の記事に相当するものです。

そして「データ自体に多くの瑕疵が有り、その結論が科学的事実に基づき、十分に担保されているものとは言えません。また多くの作為的な改変は、単純なミスである可能性を遙かに超えており、多くの科学者の疑念を招いています。当該研究の重要性は十分に理解していますが、成果の再現性は別問題として、これら論文に対しての適正な対応を強くお願いします」としています

ちなみに分子生物学会は、捏造問題(現時点ではSTAPそのものが捏造かはわかりません)に対して正面から向き合っています。例えば、去年の年会イベントのひとつとして、オープンに議論するサイトを立ち上げ、そのなかで最もPV、コメントが多いのが「捏造問題にもっと怒りを」です。

Nature誌も事態は把握

Nature誌も、ブログで事態を報告しています。Call for acid-bath stem-cell paper to be retracted(酸性処理幹細胞論文は取り下げるべきと呼びかけ)というタイトルで、今回の記事のようなことを述べています。何がすごいって、日本語の匿名告発サイトにリンクを貼っているところです。

なお、このブログも分子生物学会もNatureも、問題としているのは「一部のデータの不正な編集」や、今回は述べませんが「不適切な引用」であり、再現性やSTAP細胞そのものの存在は別問題と考えています。「不適切な引用」については博士論文にも見られるようですが、これはむしろ大学の指導環境が問題だったのでは、と考えています。一般的な作法を知らないまま研究者として育ったとしたら、むしろ不幸なのは彼女かもしれません。

その可能性もあるため、個人攻撃は決してあってはなりません。今後どうなるかわかりませんが、人の命を奪ったり、体(精神を含める)を傷つけたりするようなこと、それを助長させるような文言が許されるわけがありません。まとめ記事のタイトルなどでそういう言い回しを見かけますが、僕は大嫌いです。

 

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