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個人向け遺伝子解析サービス「ジーンクエスト」レビュー(4)教えてくれないこと

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個人向け遺伝子解析サービス「Genequest(ジーンクエスト)」をシリーズものとしてお届けしています。多くの人にとって、こういったゲノム解析でわかることのイメージは「アンジェリーナ・ジョリーの乳がん診断」だと思います。ところが、ジーンクエストには乳がんの項目はありません。なぜでしょうか。

アンジェリーナ効果

次の画像は、2013年5月27日号のTIMES誌の表紙です。

Huffingtonpostより。

表題は「アンジェリーナ効果」。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーはこの年の5月、乳がんを発症していないにも関わらず、乳房切除手術をしたとして大きな話題となりました。

彼女は母親を乳がんで亡くしており、自分も乳がんになりやすい体質なのではないかと疑っていました。乳がんと関係のある遺伝子BRCA1を調べた結果、自分のBRCA1のタイプは、生涯の乳がん発症リスクが87%、卵巣がん発症リスクが50%であると診断されました(通常の乳がん発症リスクは6~10%)。

そこで彼女がとった行動(New York Timesに寄稿した文章のタイトルでいうとMedical Choice)は、乳がんを予防するために乳房を切除するというものでした。

これを機に、乳がんの遺伝子検査を希望する人が世界中で多くなりました。正に「アンジェリーナ効果」です。

FDAの23andMe差し止めの影響

ところが、現在ネットから利用できるゲノム解析サービスのほとんどには、乳がんの診断項目はありません。実は、昨年のFDA(アメリカ食品医薬品局)による23andMeへのキット販売差し止めと深く関係しています。

FDAの23andMeへの警告文はFDAのウェブサイトで公開されています。これを見ると、FDAはゲノム解析サービスについて頭ごなしに否定しているわけではなく、医療機器(向こうの言葉では「device」)のクラス分けをどうしようかで話し合いが続いていたようです。ところが、23andMeは必要な情報をなかなか出しませんでした。痺れを切らしたFDAは、23andMeのキットは販売前承認を必要とするクラス3と見なし、その販売前承認を下していないキットに対して販売停止を命じた、という顛末です。

クラス3の医療機器は、過誤があったときに患者の命に関わる場合があるとして、非常に厳しい精度と審査が求められます。では、23andMeのキットがクラス3に分類されるのはなぜでしょうか。

FDAが懸念する2つのこと

23andMeへの警告文を見ると、FDAはゲノム解析サービスについて、2つのことを懸念しています。

ひとつは、乳がん検査のように、ひとつの遺伝子が疾患に直結するようなケースにおける「誤診」です。もし、本当は陰性なのに陽性と誤診すると、患者は受ける必要のない乳房切除手術を受ける場合があり、肉体的・精神的・経済的負担がとても大きくなります。逆に、本当は陽性なのに陰性と誤診すると、定期検診などに対する意識が低くなり、早期発見できるものも発見しにくくなる、結果として患者の命に関わってきます。

現在の技術的な問題として、遺伝子のタイプを調べるときに数%の確率でミスをしてしまうということがあります。これは現時点ではどうしようもないことです(検査を複数回することでミスの確率を低くすることはできますが、コストとの絡みの問題がでてきます)。

もうひとつは、薬の感受性に対する「自己判断」です。ある薬の効き方や副作用が遺伝子のタイプによって異なるというのがかなりわかっています。もし「自分はこの薬は効きにくいタイプだから」といって自己判断で大量に服用したときに、命に関わる副作用が絶対に出ないとも言えません。

23andMeは、乳がんリスクやアルツハイマーなど、遺伝性の強い疾患や、薬の感受性についても取り扱っていたため、FDAが問題視したということです。

予防できるものは教えてくれる

現在、多くのゲノム解析サービスでは、FDAが問題視したような項目は扱っていません。ただし、単独の遺伝子だけで決まらないものや、環境要因にも影響する疾患については扱っています。

例えば、ジーンクエストでは肺がんを扱っています。僕のオッズ比は1.46倍。それなりに高いですが、喫煙が関係していること、緑黄色野菜の摂取で予防できるらしいということから、このあたりに気を付けてみようかと考えるわけです。

僕の肺がんリスク。

ゲノム解析サービスに対する不安として「まだ発症していない病気に将来なると知ったらどうしよう」というものがありますが、現在のネットから注文できるゲノム解析サービスは、そういったものは扱っていない、と考えて問題ありません。扱っている疾患リスクのほとんどは環境要因にも影響するもので、日々の生活で改善して、予防に活用できるものです。

なお、乳がんに直結するBRCA1を調べようと思ったら、現在では病院でないと検査を受けることができません(医療行為と見なしているため)。あとは特許の絡みもあるのですが。

予防のための個人向け遺伝子解析サービスが5万円というのを、高いとみるか安いとみるかは人それぞれでしょう。現時点では相当興味があるユーザーがほとんどなので、そういった人が正確に理解しながら他の人にも広めていく(あるいは自分だけに留めておく)という状況が、しばらくは続くと思います。

遺伝子解析サービスに関することはmy genomeタグにまとめてあります。ぜひご覧ください。

 

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