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ある意味老舗の遺伝子解析サービス「DHCの美肌対策キット」レビュー(3)論文分析

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DHCが提供している遺伝子解析サービスのひとつ「美肌対策キット」を試してみたのですが、このサービスを提供できるだけの根拠はあるのでしょうか。

そもそも敏感肌とは?

前回の記事で唯一評価できたのが「根拠となるオリジナルの学術研究論文が明記されていること」です。このサービスではシワ、シミ、敏感肌について調べています。今回は、僕が子どものころアトピー性皮膚炎であったことから、個人的にも気になる敏感肌について言及します。

といっても、そもそも医学用語で「敏感肌」という言葉はありません。このサービスにおいて敏感肌とは「角質の水分量が減り、肌は乾燥。バリア機能が落ちて、外からの刺激が入り込みやすくなるため、肌あれや炎症を起こしやすくなります」とあるので、そういうことにしておきましょう。

敏感肌については、FilaggrinSPINK5という遺伝子を調べています。ざっと下のイラストのような関係になっています。

Filaggrin遺伝子によってプロフィラグリンというタンパク質が作られ、タンパク質分解酵素によってフィラグリンになり、さらに分解されると天然保湿因子となって水分の保持などに機能します。この天然保湿因子が少ないと、肌のうるおいが減って乾燥するそうです。フィラグリンや天然保湿因子については、信頼できそうなWebページでいくつも紹介しているので、仕組みとしては正しいのでしょう[1][2]。

そしてSPINK5遺伝子は、プロフィラグリンを分解する酵素を抑える役割を持っています(正確には、プロフィラグリン分解酵素の活性を抑制するタンパク質LEKTIを作ります)。つまり、SPINK5遺伝子の機能が強すぎるとLEKTIの機能が強くなる→プロフィラグリンが分解されにくい→フィラグリンができにくい→天然保湿因子ができにくい→肌が乾燥しやすい、という流れになります。これらの根拠は次に紹介する論文にあります。

根拠となる論文は明記されている

さて、大切なのは「遺伝子の個人差で敏感肌のリスクを判断できるか」です。報告書のうしろには参考文献が明記されているので、調べてみましょう。今回はSPINK5遺伝子を詳しく見ていきます。

美肌対策キットがSPINK5遺伝子について根拠としている論文は、以下の2報です。

Kato A. et al. Association of SPINK5 gene polymorphisms with atopic dermatitis in the Japanese population. Br. J. Dermatol. 148: 665-669, 2003.

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1365-2133.2003.05243.x/abstract

Nishio Y. et al. Association between polymorphisms in the SPINK5 gene and atopic dermatitis in the Japanese. Genes Immun. 4: 515-517, 2003.

http://www.nature.com/gene/journal/v4/n7/full/6363889a.html

どちらも日本人の集団で調べたもので、後者のほうは無料で全文を見ることができます。

これらによると、SPINK5遺伝子から作られるLEKTIタンパク質は1064個のアミノ酸がつながっていること、このうちアミノ酸が別のものになる個人差(多型)は5箇所あることがわかります。さらに後者の論文では、筑波大学付属病院の小児科・皮膚科の外来患者41家族177人について調べており、日本人では368番目と420番目の2箇所のアミノ酸の多型がアトピー性皮膚炎と関連があるとしています。また、母親由来のほうが影響が強いかもしれないという傾向があるようです(これについてはサンプル数が少ないため明言できないとしています)

Nishio Y. et al. Association between polymorphisms in the SPINK5 gene and atopic dermatitis in the Japanese. Genes Immun. 4: 515-517, 2003. Table 2より

ADがアトピー性皮膚炎。Asn368SerとGlu420Lysの個人差で有意差があることを示すデータ。

DHCの敏感肌対策は何を見ているのか?

確かにSPINK5遺伝子はアトピー性皮膚炎と関係していることが示されています。日本人で調べているので、信頼性も高そうです。しかし、論文を読んでみたところ、僕には疑問が2つ出てきました。

(1)SPINK5遺伝子のどの多型を見ているのか?

「美肌対策キット」の遺伝子検査ではおそらく、アトピー性皮膚炎と関連があるとされている368番目と420番目のアミノ酸のところを見ているのだと想像できます。しかし報告書には、僕のSPINK5の遺伝子型は「-」「リスクが低い」としか書いてありません。どちらか一方だけ見たのか、両方見たのか、これではわかりません。

DHCの「美肌対策キット」の報告書より

ちなみにジーンクエストでは、敏感肌という項目でrs2303067というスニップ(一塩基多型)を見ています。

ジーンクエストの解析結果「敏感肌」より

rs2303067を調べると、SPINK5遺伝子のうち420番目のアミノ酸に相当する部分でした[3]。ジーンクエストの結果では、僕は敏感肌の可能性がやや低めのタイプとなっています。また、敏感肌とは別にアトピーの項目があるのですが、そちらではrs878860という別のスニップを見ており、アトピーの僕の発症リスクは1.23倍でした。

(2)敏感肌よりもアトピー性皮膚炎を見ているのが正確では?

報告書では敏感肌のことを「肌あれや炎症を起こしやすく」なる肌質としています。確かに一般的に敏感肌と言うと乾燥しやすい、ヒリヒリしやすいという印象があります。しかしSPINK5遺伝子のタイプについて根拠としている論文では、アトピー性皮膚炎と診断された患者(しかも大学付属病院の外来患者)で見ています。

これはさすがに見ているレベルが違いすぎてミスマッチではないでしょうか。アトピー性皮膚炎であれば市販の化粧品を自分で選ぶよりも、医者に診断・助言してもらうのが確実です。

その点、SPINK5遺伝子のタイプについて「アトピー性皮膚炎」という項目に分類しているジーンライフは正確であり、評価できます。ジーンクエストでは敏感肌で括っていますが、実は「信頼できる研究報告がまだ確認できていない」という注意書きが赤で書かれているため、本気で受け止めなくてもいいかな、くらいの抑止力になっています。

ジーンクエストの解析結果「敏感肌」より

以上のことから、DHCの美肌対策キットはもっと正確に表記していただきたいところです。需要があるのは確かであり、こういうところからサービスが普及していくことは決して悪いことではないのですが、ユーザーの要望にちゃんと応えられるようなクオリティで供給してもらいたいものです。

遺伝子解析サービスに関することはmy genomeタグにまとめてあります。ぜひご覧ください。

 

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参考文献

[1] 日本化粧品技術会 化粧品用語集

http://www.sccj-ifscc.com/terms/detail.php?id=272

[2] 資生堂、肌の天然保湿因子「NMF」産生メカニズムを解明(PDF)

https://www.shiseidogroup.jp/releimg/1880-j.pdf

[3] SNPedia  Rs2303067

http://www.snpedia.com/index.php/Rs2303067