研究不正とは「偽りの巨人を創ること」である

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12月26日、2つの研究不正について最終報告が出されました。ひとつは理化学研究所(理研)のSTAP細胞関連。もうひとつは東京大学の旧加藤研で起きた大量研究不正です。

STAP細胞もSTAP幹細胞も存在しなかった

1週間前に発表されたのは検証実験の結果、つまり「STAP細胞は作れるのか」ということでした。今回発表されたのは「STAP細胞は作られたのか」ということです。

残された試料はキメラマウス(STAP細胞を注入して作られたマウス)、テラトーマ(STAP細胞から作られた腫瘍)、凍結保存されたSTAP幹細胞、FI幹細胞(STAP細胞に増殖性をもたせ、胎盤にも寄与するもの)です。最終的には全ゲノム解析(全塩基配列読み取り)した結果、どれも既存の胚性幹細胞(ES細胞)とほぼ一致していました。

ES細胞は、作製や継代において変異が生じやすい特徴があります。その変異の特徴とSTAP細胞の特徴が一致したということは、STAP細胞はES細胞である(あった)と断言してよいでしょう。つまり、残存試料に限ってですが、STAP細胞最大の特徴である「分化した体細胞から作られる」をすべて否定することになります。

なお、テラトーマ画像については、残された試料にはES細胞が含まれていたものの、論文に掲載されていた画像はES細胞由来ではなく、移植先のマウスの組織であることも判明しました(要は最初からマウスにあったもの)。

また、論文に掲載されている図表のうち、新たに2点、研究不正が認められました。ひとつは細胞増殖曲線。3日ごとにデータをとったと小保方元研究員は主張しましたが、出勤記録から計測不可能な日があり(海外出張など)、データを捏造したと判断されました。

もうひとつはメチル化のデータ。実験結果が期待した結果とは異なっていたことから「これでは論文に載せられない」と当時の指導教官である若山教授に言われ、データ操作したことを認めました。以前に研究不正とされた2点については、小保方元研究員は見せ方をよくしようとした、単純ミスだったとしていましたが、メチル化のデータについては明確にデータ操作を認めたことになります。

その他、研究不正の疑義がある10点についても調査しましたが、ほとんどはオリジナルデータがなく、不正行為があったのかなかったのか判断できなかったとしています。ES細胞混入の原因(故意か過失か)、故意であれば実行犯は誰かについても、物的証拠や証言がないとして断定できなかったとしています。

調査委員会は、このような不備の多い論文が世に出た背景として、小保方元研究員の「責任ある研究」のなさ(実験ノートの記録がない、オリジナルデータが保存されていないなど)だけでなく、若山教授の研究室運営、最終的に論文を取りまとめた笹井氏の姿勢に問題があったと指摘しています。不自然なデータがでたときに確実なチェックをするといった基本的なことができていれば、ここまで大きな問題にならなかった可能性が高いと意見しています。

組織ぐるみの研究不正、15年で33報の論文で捏造データ

同日発表されたもう一つの研究不正の最終報告が、東大の旧加藤研で起きた大量研究不正です。こちらはおよそ3年前から始まった予備調査からの最終報告ですが、不正に関わった人数は11人、不正データが掲載された論文は33報、少なくとも15年前から行われていたということです。数字だけで見れば、STAP騒動よりもはるかに規模が大きいものと言えます。

主な捏造・改ざんは電気泳動の切り貼りなどですが、こちらは個人が行ったというよりも、教授である加藤氏の主導により、強引にでも結果を出させる雰囲気が常態化し(報告書では「杜撰なデータ確認、実験データの取扱い等に関する不適切な指導、画像の「仮置き」をはじめとする特異な作業慣行、実施困難なスケジュールの設定、学生等への強圧的な指示・指導」としています)、学生も不正行為をせざるを得なかったとしています。

興味深いのは、これが研究室全体ではなく、加藤氏の権限が及びにくい研究チームでは不正行為がなかったということです。加藤研では、学外から参画した研究者が率いる研究チームもありましたが、こちらのチームでは研究不正が一切ありませんでした。また、研究者として十分にキャリアを積んでから加藤研に参加したメンバーにも、研究不正が認められませんでした。

理研の研究不正と合わせると、研究不正の背後には研究者本人の倫理観だけでなく、指導者の器にも問題があったと言えます。

研究不正とは「偽りの巨人を創ること」である

ところで、なぜ研究不正は禁忌なのでしょうか。結論が正しければ、途中経過がどうであれ、結果オーライではいけないのでしょうか。

科学は基本的に、一人でできるものではありません。これはチームプレイという意味ではなく、先人たちの英知や知見をもとにしているから、という意味です。自分の研究は、先人たちの実験結果をもとに行い、そして自分の実験結果は、後の誰かが参考にするのです。この概念を、iPS細胞を樹立した山中教授は2012年のノーベル賞の基調講演で「scientific stream(科学の流れ)」と述べています。

遙か過去に遡ると、12世紀のフランスの哲学者シャルトルのベルナルドゥス(Bernardus Carnotensis)は「巨人の肩の上に立つ」という例えを用いています。

我々は巨人の肩の上に立つ小人のようなものであり、それゆえ我々は昔よりより多くのものを、より遠くのものを見ることができる

Wikipedia「シャルトルのベルナルドゥス」より)

同じ言葉は、Googleの論文検索サービス「Google Scholar」のトップページにも記載されています。

Google Scholarより

巨人とは、先人たちの実験結果です。これに乗っかることにより、より高いところを見渡し、別の到達点にたどり着くことができるのです。思っていたのと違う到達点だったとしても、それはそれで新しい風景が見つかるという醍醐味があります。

先人たちの実験結果が巨人だとしたら、実験結果を捏造することは、存在しない偽りの巨人を創ることです。偽りの巨人の肩に乗っても、より高い到達点にたどり着くどころか、地面にたたきつけられるだけです。仮にどこかの到達点にたどり着いたとして、巨人の姿がなくなり、そこから引き返すことも進むこともできないとしたら、そこで研究者は息絶えてしまいます。

再度、改めて。研究不正とは「偽りの巨人を創ること」です。偽りの巨人の肩から見える到達点が本物かどうか、誰にも確信がもてません。「偽りの巨人を創ること」は、先人への冒涜、そして現在と未来の研究者への反逆行為です。研究者には、巨人を創るために使った設計図(実験データ)を保管する義務があり、研究室運営者には、学生に巨人の作り方(正しい研究の進め方)を教える義務があるはずです。

 

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  • 参考Webサイト

STAP細胞論文に関する調査結果について | 理化学研究所

《STAP細胞論文に関する調査結果》理研・調査委員会 記者会見 生中継 – 2014/12/26 10:00開始 – ニコニコ生放送

東京大学[広報・情報公開]記者発表「東京大学分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告( 最終 )」の実施について

Nobel Lecture by Shinya Yamanaka