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『さんタク』で調べた遺伝子は何だったのか

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正月に毎年恒例のフジテレビ特番『さんタク』で遺伝子解析サービスをやっていました。明石家さんまと木村拓哉がいくつかの遺伝子を解析して、論理力やストレス耐性などを見るというものでした。はっきり申し上げますが、こういったものの類いは「胡散臭い」で片付けるべきです。

スニップ1個の個人差が与える影響はごくわずか

番組を録画していなかったため、改めて見直すことができません。番組ではどこかのクリニックが担当していました。綿棒で頬の内側の細胞を採取するタイプで、学習能力や身体能力、性格などを判定していました。

解析した遺伝子のひとつがCHRM2です。番組では学習能力のうち、理解力・分析力・計算力などに関係していると述べていました。本当に、CHRM2遺伝子から、その人の学習能力などを分析できるのでしょうか。

この種のサービスは、遺伝情報のなかの個人差と言われるスニップ(一塩基多型)を調べます。番組では、CHRM2のスニップをAA型、AT型、TT型があると述べていました。どのスニップなのか言及していなかったため、正確な検証はできませんが、CHRM2内のスニップと学習能力の関連性を調べた論文は確かに存在します。

M. F. Gosso et al., Association between the CHRM2 gene and intelligence in a sample of 304 Dutch families. Genes, Brain and Behavior 5, 577-584 (2006)

(オープンアクセスのため無料で閲覧できます)

この論文では、オランダの304家系667人を調べています。CHRM2遺伝子のなかでも、rs324650というスニップが動作性IQ(図形や記号の処理に関わるIQ)と強い相関があることを見出しています。より具体的には、AA型に比べ、TT型では動作性IQが平均して4.6ポイント増加すると述べています。つまり「CHRM2遺伝子のなかにあるスニップrs324650は、知能検査から算出される動作性IQに対して4ポイント程度影響を与えている」ということです。それ以上でもそれ以下でもありません。この根拠から、理解力などを評価することなどできません。

ちなみに、似たようなことを僕も4年前にやっています。結果が下の画像で、そのときは「TT型」で「優」と評価されました。「優」とはどういうことでしょうか。成績表ではあるまいし。

番組で調べたスニップがこれなのか断定できませんが、スニップをたかだか1個調べた程度で、その人の知性や性格は診断できません。能力とは離れますが、最近の研究では、身長を規定する遺伝子の個人差の箇所は700個近くあることが指摘されています。

Andrew R Wood et al., Defining the role of common variation in the genomic and biological architecture of adult human height. Nature Genetics 46, 1173–1186 (2014)

将来的には、その人の全ゲノム(30億塩基対の配列すべて)を解析して、すべての遺伝子の影響力を計算すれば、先天的な知能や性格などを数値化することが可能かもしれませんが、今は不可能です。そのため、今の時代で「遺伝子から能力がわかる!」と振りかざしている業者は「胡散臭い」と見切りを付けて構いません。

未成年への遺伝子解析サービスは禁止すべき

ところで、番組では「本来は子どもの才能を見つけるためのサービス」と紹介していました。未成年への遺伝子解析サービスは、多くの学術団体が婉曲な表現ですが「やるべきではない」としています。例えば、日本人類遺伝学会は2010年に示した「一般市民を対象とした遺伝子検査に関する見解」(リンク先はPDF)のなかで次のように述べています。

未成年の子どもを対象にした能力,性格,進路適性に関わるとされる遺伝子検査などについては,子どもの人権保護や差別防止といった観点から十分な考慮が必要である

生命に直結する場合を除いて、未成年の遺伝子解析は行うべきではないでしょう。子どものためと思って遺伝子解析したつもりが、実は子どもの可能性を狭めているということは十分にありえます。また、遺伝子のことを十分に理解できない子どもにとって、遺伝子解析の結果が有益なことをもたらすとは限りません(そもそも大人も理解できていない場合も多くあります)。

「遺伝子検査 才能」で検索すると、多くの「胡散臭い」業者が見つかります。こういう業者は、先ほど紹介した人類遺伝学会の見解についてどう考えているのでしょうか。そもそも見ていないのでしょうか。このブログで紹介している「まともな遺伝子解析サービス」が健全に発展するためにも、こういった胡散臭い業者は法規制か業界ルールで排除されるべきです。

遺伝子解析サービスに関することはmy genomeタグにまとめてあります。ぜひご覧ください。

 

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