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チョコレート論文があぶり出したダイエット系ニュースの怠慢と機能性表示食品制度の危うさ

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3月末に「低炭水化物ダイエットするときにはチョコレートを食べたほうが早く痩せる」という研究成果が報告され、4月から5月にかけて世界中のメディアで報道されました。ところが、この研究成果はかなりいい加減なもので科学的根拠にはまったくならないこと、そればかりか、ダイエット系ニュースの怠慢さをあぶり出すことが目的の壮大な仕掛けであることが公表され、報じたメディアが苦い顔をするという事態になっています。

研究成果を発表した研究機関のWebサイトより。この研究機関、実は……。

ダイエットのお供にチョコレート?

3月29日、ドイツの「Institute of Diet and Health(食事健康研究所)」は、あるプレスリリースを出しました。

Slim by Chocolate New study finds that chocolate accelerates weight loss(チョコレートでスリムに チョコレートは体重減少を加速させる新発見)

このプレスリリースによると、Johannes Bohannon博士はチョコレートにはフラボノイドなど有用成分が多いため、ダイエットに効果的ではないかという仮説を検証するために、次の実験を行いました。実験では19歳から67歳の人々を、(1)低炭水化物ダイエット、(2)低炭水化物ダイエットと1日42 gのダークチョコレート(カカオ分81%)、(3)通常の食事、の3グループに分けて検証。その結果、予想通り(1)と(2)のグループは3週間後に体重が減少、さらに(2)のほうが(1)よりも体重減少が10%速かったとのことです。

研究成果は国際的な学術誌『the International Archives of Medicine』に掲載されたので、専門家も認めたということになります。

これを見たメディアは「ダイエットのお供にチョコレートを!」として大々的に報道。

Has the world gone coco? Eating chocolate can help you LOSE weight | Daily Star(イギリス、デイリースター:ココナッツは過去へ? チョコレートは体重を「減らす」のを助ける)

Need a ‘sweeter’ way to lose weight? Eat chocolates! – The Times of India(インド、タイムズ・オブ・インディア:痩せるための甘い方法? チョコレートを食べるべし)

もちろん日本でも。

チョコレートはダイエットの味方?ドイツの研究所による調査結果 – IRORIO(イロリオ)

毎日食べていいの!? アノお菓子が「ダイエットに効果あり」と判明 | VenusTap(ヴィーナスタップ)

事態が急展開したのは5月27日。実験を行ったJohannes Bohannon博士が全容を明らかにしました。

I Fooled Millions Into Thinking Chocolate Helps Weight Loss. Here’s How.(チョコレートはダイエットにいいと、私は数百万人を騙した。これがその手口だ)

ここで、Johannes Bohannon博士の正体はジャーナリストであるJohn Bohannon氏であること、根拠の弱いダイエット系ニュースがどのようにして広まるのかを検証するための壮大な実験であることが明かされました。記事の冒頭で、さっそく強烈なパンチを浴びせます。

John Bohannon氏「食事健康研究所? Webサイト以外どこにも存在しないぜ」

メディアを呼び込む用意周到な仕掛け

発端は去年の12月、ドイツのテレビ局からの依頼でした。ダメな研究がダイエットブームに取り込まれる仕組みを探る、ドキュメンタリー番組の製作でした。次に、うさんくさいダイエットを批判する著書をもつ医師に相談し、ダークチョコレートを使った実験を行うことにしました。苦いからこそ体にいいはず、という「自然食品幻想」を利用するためです。

そして、実験は確かに行われました。ただし、被験者は3グループ合計でたった15人。しかも検査項目は体重だけでなく、コレステロール値や睡眠の質など、全部で18個。少人数でこれだけの項目を用意すれば、どれか1つくらいは目立った差が出てもおかしくはないです。プレスリリースでは「ダイエットに効果的ではないかという仮説を検証」とありますが、検査項目のどれかで変化が起きれば、別に体重でなくても何でもよかったのです。

実験の結果、たしかに低炭水化物ダイエットをしたグループは、体重が平均で2.3 kg減少し、さらにダークチョコレートを食べたグループでは体重減少が10%速かったというデータが得られました。ただ、被験者の3分の2は、月経周期で体重が変動しやすい女性(3 kgくらい簡単に変動)にするなど、何らかの変化が起きやすい実験条件に(わざと)設定していました。また、2.3 kgで10%速いといっても、その差は0.2 kg。驚くほどの差ではありません。

さて、こんないい加減な実験条件で行った論文は、普通なら事前チェックで弾かれて掲載されないはず。ところが、最近では内容のチェックをほとんどしていないダメ学術誌が蔓延しており、こういった学術誌なら掲載してくれるだろうと見込んで投稿。そして指摘が一切ないまま、あっさりと掲載されました。

(現在は削除されています)

あとは突貫工事で「食事健康研究所」という架空の研究所のウェブサイトを作り、プレスリリースを載せるだけ。実はプレスリリースにも、巧妙な仕掛けが施されています。被験者がたった15人とわかれば、少なすぎるという突っ込みが入ります。ところが、プレスリリースには被験者の数はどこにも書いてありません。さらに、具体的な体重減少の数値を書かないことで、過大評価されるようにしています。

で、その結果が、最初に紹介した体たらくです。

John Bohannon氏「ほとんどのメディアは取材に来なかった。取材に来たメディアも、ほとんどが『なぜチョコレートはダイエットにいいのか。読者に何かアドバイスを』という、つまらん質問ばかり。誰も被験者の数を聞かなかったし、記事内で被験者の数を書いたりもしなかった」

栄養学は毎日がエイプリルフール

John Bohannon氏は、こういったメディアの記者は論文を読まず、プレスリリースのコピペで済ませていると厳しく指摘。見出し画像でキャッチーにしてページビューを稼ぎ、感動させているだけで、ジャーナリズムとして全くやる気がないと述べています。

ここで、日本の2つのニュース記事に振り返ってみると、プレスリリースを読むどころか、海外の記事を参考にしたというかたちで書かれています。やる気ゼロと言われても弁解の余地がありません。

ただ、わずかな希望も見えたともJohn Bohannon氏は言っています。記事のコメントで、一般読者が実験条件などに疑問をもち、懐疑的になっていたということです。

実際、食品がダイエットや健康に対してどのような効果があるのか、いろいろなところで膨大な予算を投じて(まともな)研究がなされていますが、はっきりとしたことはほとんどわかっていません。にも関わらず、ダイエット・健康系ニュースでは日々言っていることがころころ変わっています。ある記事のコメントには「栄養学は毎日がエイプリルフールだ」とありました。

John Bohannon氏「ダイエット指南は『塩は悪い、塩がいい、タンパク質はダメだ、タンパク質はできるヤツ、脂肪は敵だ、脂肪は味方だ』と、天気のように変わる」

機能性表示食品制度も危うい

このように、メディアも人々も、簡単にダイエット系ネタに騙されます。ちまたに溢れる健康ネタも同じです。こうして悪用されるかもしれないのが、日本の機能性表示食品です。

機能性表示食品制度は今年の4月からスタートし、論文で効果が示されていれば、企業の責任で商品に効用を表示してもいい、というものです。真面目な企業は健康アピールへの壁が低くなったと受け入れている一方で、怪しげな製品がすでに申請されています。

「安全性が確認できない」トクホ “却下”の製品が、機能性表示食品に | FOOCOM.NET

機能性表示食品「えんきん」の根拠は、お粗末すぎる | FOOCOM.NET

特に「えんきん」のほうは、「効果はあったとしても非常に小さい」「たくさんの項目を挙げて調べれば、一つや二つは偶然、差がつく、ということはおおいにあり得る」と、チョコレート論文とそっくりです。機能性表示食品のメーカーが狙ってやってるかどうかはわかりませんが、本当に自信があるのなら、チョコレート論文のような小細工はせずに、堂々とやればいいと思うのです。

また、論文で効果が示されているといっても、チョコレート論文のようにダメな実験条件でも掲載されることはありえます。その辺りは消費者庁がちゃんとチェックしないと、せっかくの機能性表示食品制度が台無しになってしまいます。

この状況を見ると、今の機能性表示食品制度はかなり危ういです。もう少し制度がしっかりするまでは、わざわざ余分に高いお金を払ってまで買う必要はないと考えます。

(ところで、チョコレート論文はネタ晴らしがあったのに、リンクした記事は未だに訂正されていません。本当にやる気がないようです)

 

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