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2015年ノーベル生理学・医学賞~日本のゴルフ場と中国の古文書から見つかった回虫・マラリア感染症治療薬~

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2015年のノーベル生理学・医学賞にはWilliam C. Campbell博士、大村智博士、Youyou Tu氏が選ばれました(Youyou Tuは博士号を取得していません)。受賞理由は、Campbell博士と大村博士が「回虫の寄生が引き起こす感染症に対する新しい治療法に関する発見」、Tu氏が「マラリアに対する新しい治療法に関する発見」です。人類が数千年にわたり苦しめられている感染症の根絶に向けた成果です。

画像はノーベル財団サイトより

世界の3分の1の人を苦しめる寄生虫感染症

感染症は人々の健康や命を奪う人類の敵で、特に寄生虫による感染症は今でも世界の3分の1、20億人以上が苦しめられていると推定されています。例えば、以下の3つです。

ひとつは、クロバエが媒介する回旋糸状虫(回虫)が引き起こす感染症で、皮膚に激しい痛みを感じ、重症になると角膜で慢性炎症が起きて失明します(河川盲目症といいます)。次が、蚊が媒介するフィラリアが引き起こし感染症で、リンパ系がダメージを受け、足が象のようにふくれあがります(象皮病といいます)。

最後が、マラリア。蚊が媒介するマラリア原虫によって引き起こされ、高熱が特徴です。現在でも1年間に約2億人が感染し、年間50万人以上の死者を出しています。マラリアは主に熱帯で見られるので日本ではなじみが薄いのですが、世界ではHIV(エイズ)、結核と並んで三大感染症に含まれています。

以降の画像はノーベル財団のプレスリリースより。Elephantiasis(象皮病)、River Blindness(河川盲目症)、Malaria(マラリア)は地図の青いところ(熱帯)でよく見られるので、ほかの感染症と含めて熱帯病と括られます。

日本のゴルフ場から見つかった抗生物質

大村博士は微生物学者であり、土壌で生きている細菌を大量培養する手法を使って、数千におよぶ細菌を取り出しました。そのうち50くらいの細菌で、有害生物を殺すような成分がないか調べました。

土壌の中から見つけた細菌を培養。そのなかに、抗生物質を作る細菌が見つかります。ちなみに場所は静岡県のゴルフ場の近くらしく、よく見ると富士山やゴルフボールが見えるというノーベル財団の小ネタ。

Campbell博士は寄生生物学者であり、大村博士が取り出した細菌をさらに調べ、エバーメクチン(Avermectin)が抗生物質としてはたらくことを見つけました。その後、抗生物質としての機能がさらに強いイベルメクチン(Ivermectin)が作られ、これが河川盲目症や象皮症を引き起こす寄生虫に非常に有効であることがわかりました。

中国の古文書にマラリア治療薬開発のヒント

次に、Tu氏の成果です。1960年代まで、マラリアに有効な薬はいくつかありましたが、どれも副作用が強く、これという決定打はありませんでした。Tu氏は漢方薬に注目し、マラリアに効果がありそうな漢方薬をしらみつぶしに探しました。その数は2000種類以上。そのなかでも、青蒿(セイコウ、和名はクソニンジン)がマラリアに有効らしいというデータを得ました。

しかし、セイコウを使った実験はあまり再現性がなく、途方に暮れていたとのこと。そこで3世紀から伝わる薬学の書籍を見ると「2リットルの水に漬け、ジュースにして飲むとよい」という文章がありました。実験ではセイコウを加熱して成分を抽出していたのですが、どうやら低温で抽出するのが効果的らしいというヒントを得ました。そして、見事にセイコウに含まれる成分アーテミシニン(Artemisinin)がマラリアに有効であることを発見しました。

マラリア治療薬のヒントは1000年以上前の中国の古文書にありました。

イベルメクチンとアーテミシニンを組み合わせると、マラリアによる死亡率を20%以上、子どもでは30%以上も減少させることができます。この数字は、アフリカでいえば年間10万人以上の命が救われることになります。

感染症への注意喚起が裏メッセージ?

3人の研究成果は、感染症の根絶に向けて画期的な治療薬を開発したことです。いずれも1980年前後に報告されたもので、なかでもTu博士の論文は中国語で書かれたものです。しかし、今では多くの人々の命を救ってきた成果として評価されたということです。

なお、賞金約1億円は、Campbell博士と大村博士がそれぞれ4分の1、Tu氏が2分の1です。このことからも、マラリア撲滅に向けたノーベル財団の意思が垣間見えます。

日本ではあまり危機感がない感染症ですが、世界ではまだまだ大きな問題であり、多数の死者を出しています。また最近では、エボラ出血熱なども騒がれています。多くはアフリカを中心とした熱帯で起きていますが、飛行機などによる人や生物の移動が盛んになった現在では、どこの国でも感染症は起こりえます。そういった感染症に対する注意喚起も、今回の受賞テーマにはあるのではないかと推測できます。

 

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