NHKドラマ『デザイナーベイビー』で登場した救世主兄弟とは?

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NHKで火曜日22時から放送されている『デザイナーベイビー』は、新生児誘拐事件と生殖補助医療を絡めた医療ミステリドラマです。27日に放送される回の予告で、誘拐された赤ちゃんは「救世主兄弟」だとする発言が飛び出てきました。救世主兄弟は2000年にアメリカで初めて誕生し、世界ではこれまでに数百人が誕生しているとされています。救世主兄弟とは一体何なのでしょうか。

注:一部物語の核心に触れる部分があるので、放送を楽しみたい方は27日の放送終了後にお読みください。救世主兄弟を先に予習しておきたい方はお進みください。

画像は日本科学未来館(東京都江東区)で展示されているヒト受精卵(受精4日後)の8細胞期の映像

伏線となる白血病

ドラマでは、両親の子ども(誘拐された赤ちゃんから見ると兄)が白血病であることが明らかになっています。白血病とは、赤血球や白血球などを作る造血細胞に異常があり、赤血球や白血球が作られにくくなり、感染症や貧血が起きやすくなる病気です。造血細胞の状態で増え続けるのが原因で、白血病は「血液のがん」とも呼ばれています。

ドラマでも白血病の兄が、指先を切ったあとで感染症にかかる描写がありました。普通では病原体が体内に入り込んでも白血球がやっつけるのですが、白血病では白血球が少ないで、少しの病原体でも感染症を引き起こします。

白血病の治療法としては、一般的には抗がん剤を投与して、増えすぎる造血細胞を殺します。ただ、症状が抑えられないときは「骨髄移植」を行います。骨髄移植では、一旦患者の体内にあるすべての造血細胞を殺してから、ドナーの骨髄液(造血細胞のもとなどが含まれている)を移植します。

白血病を治療する骨髄移植の相性は遺伝子で決まる

骨髄移植では、通常の臓器移植を同じように拒絶反応が問題になります。拒絶反応とは、他人の細胞を移植するときに、免疫によって排除しようとすることです。

拒絶反応を起こさないためには、免疫のタイプ(HLA型といわれ、白血球の血液型みたいなもの)が一致する人同士で移植をする必要があります。いわば相性です。ところが、HLA型は遺伝子で決まるので、無関係な人同士のHLA型が一致するのは数万分の1程度。親子や兄弟でも25%です。

ドラマでは、兄が白血病のままであることから、父も母も両方ともHLA型が一致せず、骨髄移植できていないのだろうと想像できます。もう1人子どもを生み、HLA型が一致すればいいのですが、その確率は25%です。

ところが、それを100%にする方法があります。そうして生まれた子ども(ドラマで誘拐された妹)が救世主兄弟です。

体外受精卵の遺伝子を調べる

救世主兄弟を生むためには「体外受精」と「着床前診断」を行います。

まず、体外受精によって、体外で受精卵を作ります。そして受精から3日後、細胞が8個に分裂したときに、そのうちの1個を取り出して遺伝子を調べます(この段階なら、残りの7個の細胞だけで正常に体が作られます)。着床前に遺伝子を調べるので、着床前診断と呼ばれます。

そして、HLA型が理想のものとわかった受精卵だけを、母体に戻します。これで、兄と同じHLA型、つまり確実に骨髄移植できる子どもが生まれます。

HLA型が一致しなかった受精卵は廃棄されます。そのため、この方法は「選別、選び抜く(スクリーニング)」という意味合いが強く、「着床前スクリーニング」と呼ばれることもあります。

救世主兄弟は実在する

救世主兄弟はドラマ内の想像だと思われるかもしれませんが、海外ではすでに数百人の救世主兄弟がいると推定されています。

救世主兄弟は、海外では「savior sibling」と言います。世界で初めての救世主兄弟が生まれたのはアメリカで、なんと2000年8月の出来事です。

BBC News | HEALTH | Baby created to save older sister(姉を救うために作られた赤ちゃん)

先に生まれた姉が「ファンコニ貧血」という遺伝子疾患であり、ドラマと同じく骨髄移植で治療できる病気です。救世主兄弟として生まれた弟はAdamという名前で意味深です。生まれてから2ヶ月で、Adamの骨髄は姉に移植されました。「使命を果たした」といったところでしょうか。

救世主兄弟を作ることについて、アメリカではクリニックごとの裁量に任せられており、とくに法律などで規制されていません。

一方、イギリスでは白血病やファンコニ貧血など、血液の病気に限って救世主兄弟を認める法律を2007年に制定しました。イギリスでは2009年に初めての救世主兄弟が生まれ、移植は2010年に行われています。

First successful saviour sibling treatment for UK – BBC News(イギリスで救世主兄弟による治療に初成功)

日本では学会のガイドラインで実質禁止

さて、ひるがえって日本です。日本では救世主兄弟について言及する法律もガイドラインもありませんが、日本産婦人科学会の「着床前診断に関する見解」で実質禁止としています。

倫理に関する見解:日本産科婦人科学会

ここの「着床前診断の実施に関する細則」の「1.申請方法」の「2)着床前診断症例認可申請」で「①着床前診断を行う疾患名(遺伝子変異、染色体核型など)」とあります。つまり、着床前診断は「生まれる子どもが病気かどうかを調べる」場合のみ可能と読み取れます。

救世主兄弟は、調べるのはHLA型であり、病気とは何の関係もありません。そのため、日本で救世主兄弟を作るのは学会の見解に反することになります。

とはいえ、せいぜい学会を追放されるだけで、学会員でなくても病院を経営したり患者を診断したりできるし、救世主兄弟が認められている海外で事業展開するための売り込みには使えるかもしれません。ドラマでもタイでどうのこうのという話が出ていたので、海外での技術展開を狙っていそうです。

ゲノム編集への伏線も

救世主兄弟は、HLA型が一致する確率を25%から100%にすること、受精卵の遺伝子を選別するだけで操作するのではないという意味では、デザイナーベイビーというほどのものではないのかもしれません。とはいえ、同じ方法を使えば、遺伝子の組み合わせ上ありうる外見や病気リスクも選別できるので、どこまで認めるかはいずれ問題になるでしょう。

ちなみにドラマの第5話では、「CLISPER/Ces7」という実験キットを発注していたことがさらりと登場します。おそらく元ネタは「CRISPR/Cas9」であり、ゲノム編集に必要なものです。

ゲノム編集は、ピンポイントに確実に遺伝子を操作する最新の技術です。もし、受精卵にゲノム編集をしたとしたら、いよいよタイトル通りの「デザイナーベイビー」になります。4月に中国の研究者が本当に行ったとして大きな話題になりました。

ドラマを通じて、生殖補助医療がどういったものか、いろんな人が知り、考えるきっかけになるのはとてもいいことだと思います。放送はあと2回ですが、どうなるか気になるところです。

『デザイナーベイビー』公式サイト

http://www.nhk.or.jp/drama10/baby/ 

 

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