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スポーツ遺伝子の検査は無意味、イギリスの専門家グループが提言

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このブログでもたびたび取り上げる「遺伝子解析サービス」ですが、実際には玉石混交という状態です。遺伝子からわかることの限界やリスクを丁寧に示すまともなサービスもあれば、遺伝子ですべて決まっているような言い回しをする乱暴なサービスも多くあります。後者のうち、特にスポーツの才能を見抜く遺伝子解析サービスについて、イギリスの多分野にわたる専門家グループが提言をまとめました。結論から述べると「今はスポーツ遺伝子を調べても無意味」です。

専門家はスポーツ医学から社会科学まで

提言は『British Journal of Sports Medicine』誌の2015年12月号に掲載されました。オープンアクセスなので誰でも無料で見れます。

Nick Webborn et al. (2015) Direct-to-consumer genetic testing for predicting sports performance and talent identification: Consensus statement. British Journal of Sports Medicine 49 (23): pp. 1486-1491.

メンバーの専門分野はスポーツ医学、スポーツ科学、遺伝学、社会科学、小児科、法学、生理学と多岐に渡ります。

あらかじめ断っておきますが、ここで述べる遺伝子解析サービスとは、ネットや店頭から注文できるものであり、病院で遺伝性疾患を調べる遺伝学的検査とは異なるものです。日本でいうとジーンクエストやジェネシスヘルスケア、DeNAのマイコード、MTIのディアジーンなどです。

半分以上のサービスでどの遺伝子を調べているのか不明

まずメンバーは、現状の遺伝子解析サービスを調査しました。欧米で利用できる遺伝子解析サービスのうち、スポーツや運動に関する項目を提供している39種類を調査の対象としました。これらのサービスが主張するうたい文句には、以下のものがあるようです。

・あなたの遺伝子が運動能力にどう関わっているのかを見つけよう(Discover how your genes contribute to your athletic traits)

・あなたのスポーツ遺伝子に基づいて、あなただけのトレーニングを(Personalise your training based on your sports genetics results)

・私たちはあなたのDNAの結果をもとに、体重を減らして筋肉を作り、ぴったりの服を着られるようにお助けします(We use your DNA results to help you lose fat, get lean, build muscle, get fitter)

ただ、39種類中21種類(54%)のサービスでは、どの遺伝子(塩基配列の場所)を調べているのか不明でした。

これについてメンバーは、商業的なプレッシャー(企業秘密)は理解できるものの、何も情報がないのでは調べようがないと述べています。

たった1つの遺伝子で才能はわからない

調べる遺伝子を明らかにしている残り18種類のサービスで、最も多く調べているのはACTN3という遺伝子で18種類中16種類。次に多かったのはACE遺伝子で18種類中11種類でした。18種類のサービスで調べる遺伝子の数は、最小で1つだけ、最多で27個、中央値は6個でした。

問題は、調べる遺伝子の性質と、うたい文句が結びつくかです。確かに、ACTN3遺伝子が短距離走のスピードに、ACE遺伝子が忍耐力に関わっているという研究報告はあります。しかし、短距離走のパフォーマンスの個人差は、ACTN3遺伝子やACE遺伝子だけでは説明できず、パフォーマンスの差のうちせいぜい3%くらいだといわれています。

そのため、数個の遺伝子を調べるだけでスポーツの才能を判断し、トレーニングの方法や種目そのものを変えるのは意味がない、とメンバーは述べています。

また、こういった科学的知見が不足しているだけでなく、遺伝子に関する情報をユーザーに提供する際の遺伝カウンセリングも不十分だと指摘しています。

スポーツの才能を知るための遺伝子解析サービスが立ち入る場所はない

さらに、科学的な問題だけでなく、教育的な問題にも言及。不十分な品質の遺伝子解析サービスは、スポーツへの参加の機会を少なくさせると危惧します。特に子どものスポーツ遺伝子を調べることは、将来を切り開こうとする子どもの権利を奪うことであり、この権利は親が守るべき義務であるとしています。つまり、子どもにスポーツ遺伝子を調べさせることは無意味どころか、むしろ避けるべきであると主張します。

また、生涯スポーツで満足することができにくくなると述べています。そもそもスポーツは、表彰台に上ることだけが目的ではありません。

メンバーは再三、次のように述べています。より大規模な研究が行われれば、スポーツと遺伝子との関係が明らかになる可能性はありうるものの、現状ではスポーツの成績や才能を特定できるレベルには到達しておらず、遺伝子解析サービスが立ち入る場所はありません。

currently, there is no place for DTC testing for predicting sports performance and talent identification

日本では認定制度に期待か

さて、翻って日本です。日本の遺伝子解析サービスでも、ACTN3遺伝子を調べるものはあります。例えばジーンクエストの「筋力」という項目は、ACTN3遺伝子をもとにしています。

実は言い回しが非常にうまく、「あなたは短距離向けです」ではなく「短距離選手に多いタイプ」と表現しています。ACTN3遺伝子の上では短距離選手に多いタイプだけど、あなたが短距離向けかは断言できません、というニュアンス。さすがジーンクエストといったところです。ちなみに僕は、短距離走は最下位争い、マラソンなら中の下なので、他の要因が影響しているのでしょう。そもそも運動能力が絶望的に低いので気にしませんが。

ただ残念ながら、このように丁寧に説明しているサービスは多くありません。試しに「スポーツ遺伝子 検査」で検索してみましょう。論文で指摘されたことをそのまま言い切っている胡散臭いサービスがなんと多いことか。

そういった怪しげなサービスを駆逐しようと、最近になって認定制度がスタートしました。来年3月に認定サービスが公表される見込みです。

遺伝子検査を役立てるには:日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXKZO93733090X01C15A1EA1000/

認定されているかどうかでサービスの質を判断できるようになることを願うばかりです。

遺伝子解析サービスに関することはmy genomeタグにまとめてあります。ぜひご覧ください。

 

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