水素バスは泡がぶつかる簡易式ジャグジーくらいの意味しかない

chemistry

最近の美容界で話題になっているのが水素関連です。水素を溶かした水を飲むと、水素が体内の活性酸素と結合すると主張するものです。活性酸素はDNAを傷付ける性質があるため、水素水は健康や美容によいなどといわれています。最近、さらに発展した「水素バス(水素風呂)」なるものが登場しています。気になったので実践してみました。

コンビニスイーツといっしょに並ぶ水素発生装置

きっかけはナチュラルローソン乃木坂店で見つけた、上の看板です。「全身で水素を吸収」でき、「身体の芯から温まる」ことができるらしいです。水素の吸収と体が温まることと関係があるのはよくわかりませんが……。ここでも「美容・健康のため」とあります。

こちらは陳列棚。水素風呂の効能として「血流促進・体温上昇、体の芯から温まり、湯冷めしづらい!」「皮膚の不調の改善」「疲労回復」「身体の緊張をほぐす」とのこと。一番右には、水素を一気に全身で取り込むことができます、とあります。

なぜか冷蔵コーナーでスイーツといっしょに並んでいました。ターゲット層が近いのでしょうか。

そして気付いたときには買っていました。パッケージの裏はこんな感じ。

一括表示を見ると、主成分はアルミニウム、酸化カルシウム、他はすべて食品添加物(?)。この表記はアリなのでしょうか。食品ではないから問題ないのかもしれませんが。

水素バスに入ってみた

さて、前置きはこれくらいにしておいて、人柱としての使命を果たしましょう。パッケージを開けると専用ケースが入っています。

ステンレスの棒が重しです。このケースに水素発生装置をセットします。

水素発生装置はホッカイロのような外見です。ケースのフタを閉め、湯船に落とします。そのようすは動画でどうぞ。

ぽこぽこ出ているのは水素でしょう。最初はいきおいよく発生しますが、10分ほど経つと落ち着いてきます。時間が経つほど弱まりますが、5時間ほど発生し続けます。

さて、実際に水素バスに浸かった感想ですが、確かにぽこぽこ出る泡が体に当たるのは気持ちいいです。簡易式ジャグジー風呂といったところでしょうか。ただ、泡が当たることによる物理的な効果なのか、水素によるものなのか、いまいちわかりませんでした。

ところで、パッケージを見ると「冷え性のわたしにぴったりね」とあります。

僕はこれでもかなりの冷え性で、特に足先がひどく冷えるのですが、水素バスに入ったからといって冷え性がよくなるということはありませんでした。確かに「冷え性が改善します」とは書いてありませんね。

あと、このお姉さんは「浸透力が高いから肌の調子もいいみたい」と言っていますが、保湿クリームのようなものを塗りながら言っているので、もしかしたら水素ではなくて保湿クリームの浸透力が高いと言っているのかな、なんて思ってしまいます。

あと「からだがポカポカ なんかいつもより暖まるなー」とありますが、ここは「温まる」が正しいです。がんばりましょう。

気体は本当に水素なのか?

この水素発生装置の原理は、次の反応式で説明できると予想されます。まず、酸化カルシウムと水が反応して水酸化カルシウム(消石灰)が作られます。

CaO + H2O → Ca(OH)2

このとき熱が発生するのですが、この発熱反応を利用したのが、駅弁を温める装置です。そして、作られた水酸化カルシウムとアルミニウムが反応することで水素が発生します。

Ca(OH)2 +2Al + 6H2O → Ca[Al(OH)4]2 + 3H2

理論上はこのようになるのですが、水素発生装置から発生する気体は本当に水素なのでしょうか。それを確かめるため、気体を水上置換法で採取し、火を近づけました。

【注意】非常に危険な実験です。絶対に真似しないでください。

火を近づけるとポンと音が鳴った(と同時に想像以上に炎が上がった)ため、これは水素の可能性が極めて高いといえます。酸素の可能性も残されていますが、これ以上の検証を1Kの賃貸マンションでやるのは危険なので諦めました。

水素は浸透しない、ぶつかるくらい

問題は、この水素が体に浸透するかどうかですが、これは疑問視せざるをえません。

まず、水素発生装置から発生した水素が湯船のお湯にとけるとは考えられません。水素は水にとけにくい気体の代表格で、中学校でも習います。だからこそ先ほどの動画で、水上置換法で採取できたのです。容器内に水素が溜まるということは、お湯にはとけていないことを意味します。

また、泡が体に当たった一瞬で水素が体に浸透する可能性もないでしょう。ヒトの皮膚では、呼吸は行われていません。皮膚呼吸という考えは誤りです。

水素ガスを吸入すると脳梗塞や心筋梗塞が軽症化するという報告は確かにあります。

心停止後症候群に対して水素ガス吸入が脳障害を改善する効果を発見 —救急医療現場に即した社会復帰率を改善する新たな治療法として期待—:[慶應義塾]

ただ、26%酸素+1.3%水素という、家庭ではまずできない濃度です。しかも脳梗塞や心筋梗塞という深刻な症状に対してなので、お風呂に入れるような健常者に意味があるのか、現時点では誰にもわかりません。

以上のことから、確かに水素は発生するものの、「全身で水素を吸収」できるとはいえません。正確に表現するなら「水素を含む泡がぶつかる」くらいでしょう。泡が当たることによる気持ちよさ(ストレス軽減)、部分的な血行改善効果くらいはあるかもしれませんが、水素である必要はありません。

簡易式ジャグジーとして楽しむなら使える

水素バスは、ぽこぽこ出てくる泡が気持ちいいので、簡易式ジャグジーとしては使えるかもしれません。しかし、水素は体に浸透しませんし、体内の活性酸素は減りません。直接の害はないと思うので禁止するほどではありませんが、浴室は火気厳禁にしましょう。アロマキャンドルを併用して爆発する可能性は、正直僕には判断できませんので。

何らかの効果を期待したいのであれば、目的の効能が書かれた薬用入浴剤を使いましょう。コストも抑えられて確実です。

2016721日追記

子どもが火傷を負った事例があったとして、国民生活センターが注意を呼びかけました。子どもの指がケースのすき間を通ってしまい、高温の袋(最初の水酸化カルシウムが作られるときに発生する熱)に触れる可能性があるとのことです。また、医薬品医療機器等法に抵触するおそれのある表現についても言及しています。下のPDFでは商品名とメーカーが明記されており、この記事で検証したのは記載されているうちのひとつです。

発熱反応を伴い水素を発生するというパック型入浴剤-使い方によっては、やけどのおそれも-(発表情報)_国民生活センター