イギリス、正常なヒト受精卵へのゲノム編集を承認

genome editing

イギリスの研究機関であるフランシス・クリック研究所は、ヒト受精卵にゲノム編集する認可を専門機関から得たと発表しました。受精卵は体外受精で余った、正常なものを使います。国の専門機関が正式に承認し、正常な受精卵にゲノム編集するのは世界初です。今後、多くの国が追随すると予想されます。

フランシス・クリック研究所のステートメント(2月1日付)

申請は去年の9月、承認まで約4ヶ月

突然降ってきたかようなニュースですが、昨年の9月に申請していたものです。

繰り返しになりますが、申請したのはKathy Niakan博士。専門は、受精卵から体がどのように作られていくのかを研究する発生学で、ヒトの初期の発生における遺伝子の機能などに注目して研究を行っています。

イギリスでは1990年にヒト受精・胚研究法が制定され、ヒトの受精卵の取り扱いについては「Human Fertilisation and Embryology Authority(ヒト受精・胚機構)」という国の専門機関が実際の規制を行っています。

今回は、ヒト受精・胚機構が審査し、承認したというものです。ただし、ゲノム編集した受精卵を体外で育てるのは受精後7日までとして14日以内に廃棄すること、子宮に戻して着床させてはいけないという条件付きです。

胎児になる細胞で機能する遺伝子を破壊する

Niakan博士は、受精卵で機能するOCT4遺伝子をゲノム編集で破壊し、それによる影響を最初に調べる予定としています。

この画像は、日本科学未来館(東京都江東区)で展示されているヒト受精卵(受精後6日)の映像です。研究の対象期限となる受精後7日の少し前で、128~256個の細胞からできています。

画像をよくみると、左上のあたりは少し細胞が集まっています。この部分は「内細胞塊」と呼ばれており、これらの細胞が胎児になります。この細胞は、体のあらゆる種類の細胞に変化できます。この細胞を取り出したものが「ES細胞(embryonic stem cells、胚性幹細胞)」です。

全体をぐるりと囲んでいるのは「栄養膜」と呼ばれる細胞集団で、胎盤や羊膜などに変化します。

ゲノム編集で壊すOCT4遺伝子は、このうち内細胞塊で機能します。今回の実験では、OCT4遺伝子を壊すことで、OCT4遺伝子が内細胞塊で何をしているのかを明らかにすることが目的です。OCT4遺伝子は、iPS細胞を作製するときにも登場する遺伝子です。この遺伝子が子宮への着床や胎児への成長に関わっているとすれば、不妊の原因の一部を明らかにできるのかもしれません。

正常なヒト受精卵へのゲノム編集は世界初

ヒト受精卵へのゲノム編集といえば、昨年の4月に公表された中国の研究チームが思い浮かびます。

今回のイギリスの件は、大きく2点が異なります。ひとつが、国の専門機関から公に承認されたこと。もうひとつが、正常な受精卵を使うことです。

中国の場合、1個の卵子に精子が2個受精してしまった異常な受精卵(受精後5日には死んでしまう)を使いましたが、今回のイギリスは正常な受精卵を用います。正常に育つ受精卵のOCT4遺伝子を破壊することで、その影響を調べるためです。

実験に使う正常な受精卵は、体外受精で使われずに廃棄される「余剰胚」です。体外受精では、まず卵子を約10個取り出し、顕微鏡下で受精させますが、一度に子宮に戻せるのは1~2個です。残りは妊娠しなかったときのために凍結保存しておくのですが、何らかの理由で不妊治療が中止されたときに凍結されたままの受精卵が余剰胚です。凍結保存するにもコストがかかるため、一定期間後には廃棄されます。日本では毎年数万個が余剰胚として廃棄されるといわれています。

ES細胞も余剰胚から作られているので、余剰胚を使うこと自体は新しい問題ではありません(受精したときから生命と見なす宗教によっては以前から問題視されていますが)。ただ、OCT4遺伝子の機能を調べる以前に、うまくゲノム編集できるかどうかすら不明なので、まずはそこから検証すると考えられます。

他の国が追随するかもしれないが、どこまで足並みをそろえるかは不透明

昨年12月に開かれたゲノム編集の国際サミットでは、妊娠を前提とした生殖細胞や受精卵へのゲノム編集は無責任としながら、基礎研究や前臨床研究は容認する結論を出しました。今回のイギリスの決定は、これに従ったかたちとなります。今後、他の国も追随する可能性があります。

ヒト受精卵へのゲノム編集は、まだ危うい過渡期ともいえるのが現状です。国際的な規制のもとで行われるのが好ましいのですが、各国がどこまで足並みをそろえることができるのかは不透明です。

ゲノム編集に関することはgenome editingタグにまとめてあります。ぜひご覧ください。

 

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